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2008'10.17.Fri
稽古場の人間模様というのはなかなか面白いものがあります。実際に稽古をしている時はさすがに静まり返って各々が稽古に注目しているのですが(段々慣れてくると、みんな気の抜き方を覚え、それなりに騒がしくなりますが)、休憩ともなると、バイトで疲れきって寝ている人、経費削減のために家で作ってきたおにぎりを食べる人、歌っている人、柔軟をしている人、台本を読みながらこの世の終わりのような顔をしている人、セリフも覚えずにひたすら小道具のみを作っている人、演出席のゴミ袋の分別をしている人、差し入れのコンソメスープを全員分作るオールラウンド助手、実にさまざまです。その中で一番悲壮な顔をしているのは音楽出しを担当している人間。それは実に不幸です。
私は音楽をよくのせます。もちろん、役者があちゃちゃの時に音楽を入れること(A)も、実はあります。演出ミスであるが故に退屈でヤバイシーン(B)にだっていれます。この音楽好きは、ときにさまざまな批判を稽古場でも浴びます。音楽が多いのではないか・・・音楽より大切なのは俺たち役者の芝居じゃないのか・・・誰も言いませんが、役者がそう思っていることも分かっています。それでも私は音楽をいれます。なぜかと言われれば好きだからしかないのですが、ここぞという時に、役者の心にはいると、音楽というのは本当にいい劇的効果を生むのです。状況にかけても音楽は仕方ありません。ここは説明ゼリフだから、ちょっと音楽でもかけてしのぐか・・・そんな使い方は劇団ピンク校舎では皆無です。もちろん例外として(A)(B)には、時たま音楽が入りますが・・・。
さて音楽出し。さまざまな音楽を試すので、稽古中もここはこの音楽で、あそこはあの音楽でと、常にめまぐるしく変わります。音楽出し担当は全く休むことができません。しかも音楽出しはだいたいが新人の担当。モタモタしていて先輩のちょっとテレビなんかで良く見たりする役者を待たそうものなら、それはそれは大変です。音楽が別音楽に変わることもさることながら、同じ音楽でもきっかけが変わることもしばしばです。だって、音楽は常に役者の心に入れますから、やっていくうちに入れ方が変わるのはしょうがないですよね。役者は生き物ですから。ああ、死んだ冷凍マグロならどんなにかいいでしょう。
涙を流していたA子が、青空を見てふっと笑顔を取り戻す・・・音楽出しのきっかけとしては「ふっと笑顔をもらしたその時」と決めたとします。演出意図としては、その瞬間に彼女の心の中に明日への勇気が芽生え始めるのです。さあ、音楽出しです。ここからが難しい。「ふっと笑顔をもらしたその時」にもいくつかのポイントがありますね。笑顔になったホント直後、笑顔になって半拍。笑顔になって一拍。笑顔になりきった頂点。どこが正解なのでしょう。もちろんそれを探るために稽古をしているのですが、正解はその時その時の役者の演技をみて、どうや!ここやろ!といれるしかありません。直後、半拍、一拍、頂点、どれも実は不正解なんですね。役者は同じ芝居を二度としてはくれません。その時の役者の生理を読みきり、その音楽で役者の心をもっと増幅していくのが音楽出しです。当の役者すら鳥肌がたってしまう音楽出しのポイント・・・音楽を出した奴ですら同じく鳥肌がたつのを感じる瞬間。指と脇に流れるイヤな汗が、喜びの汗に変わる瞬間です。それを探るには、乱暴な言い方ですが、毎度毎度、バカみたいに同じ連中とやるしかないのです。そんなことも文化の蓄積・・・ですがユメユメひとつのパターンを共有するということではありませんが。
本当に音楽出しは「レーコンマ何秒」の世界です。でも、不思議と音楽出しがうまい人間はいるんですよね。こちらが憎らしくなるほど平然とやってのける奴・・・そんな奴は芝居もうまい。人と呼吸を合わせるのが芝居ですから、音楽出しがうまければ間違いなく芝居もうまいのですが。役者がよくなるから私は音楽ときっかけにはこだわります。普段はヘラヘラしていても、そのことはうるさいです。だっくんに言わせると、間違えると「怒りの熱波」が吹いてくるそうです。
そんなだっくん。稽古中のとても重要な音楽ポイントで、なんと音楽が出てこないことがありました。「どやねん!」おそらく私は「怒りの熱波」なるものを吹かせたのでしょう。ですがだっくんは微動だにしません。ふとみるとだっくんは役者をボーっと見つめています。さすがに気がついただっくんが「すいません!芝居に見とれて忘れてました!」私はうなりました。そう言われたら誰が怒れるでしょう?役者だってこんなこと言われたら、嬉しいですよ。演出家だってその芝居はオレがつけたんだなんて勝手に思い込んでますから、怒れないですよ。ずるいなあ。けれどもこの言い訳は使えるぞ。そう教えてくれただっくんでした。
なので音楽出し担当。休み時間でも音楽きっかけの修正作業や、スムーズな音楽出しのためのCDの並べ変えをし、またそれを最終的に音響さんが分かるように表を作らねばならず、休憩時間などあろうはずもないのです。昔は著作権のない音楽を使ってやっていましたが、最近では何と何とある音楽家との出会いによって、自前の音楽なるものを作りました。プロデュサー立石の紹介なのですが、その出会いはまたいずれ書いて参ります。
ある時の稽古でこんなことがありました。稽古も終盤に近づき、いよいよ音響さんも参加し、音楽を固めなきゃの時です。だいたい音響さんとのやりとりは演出助手が仕切ります。音響さんが、「だっくん、ここは何の音楽?」「あ、まだそれ固まってないんすよ」「じゃあこのシーンは?」「あ、それも・・・」「まじで?じゃあ、このラストは?」「そこも・・・」しまいにはだっくんが「音楽コロコロコロコロ変わるんだよ!毎日変わるよ!コロコロコロコロ!」キレました。コロコロ変えている張本人である私の数センチ先での出来事でした。役者って面白い生き物だなあ・・・ああ、またゴミ捨てのビニール袋、忘れてる・・・。
写真は昔クリスマスシーズンにやったミニミュージカルの音楽集です。コロンという星から来た少女が、地球で恋愛をして、それでもコロンに帰らないといけないというそんなお話。「さよならメリークリスマス」というタイトルです。立石プロデューサーが役者兼制作件音響で平均睡眠2.5時間でヘロヘロになった作品です。
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